#0337|明治村建造物移築工事報告書 第12集 芝川又右衛門邸

#0337|明治村建造物移築工事報告書 第12集 芝川又右衛門邸

武田五一設計の邸宅、その移築復原と建築史的調査の記録


書誌情報

書名|明治村建造物移築工事報告書 第12集 芝川又右衛門邸
著者/編著|博物館 明治村 編
出版社|博物館 明治村
初版|2010年8月
版|初版
判型|A4判
ページ数|164ページ+巻末資料
サイズ|210×297×20mm
重量|-
言語|日本語
ISBN-10|なし
ISBN-13|なし
定価|非売品
分類|Monograph


この本について

『明治村建造物移築工事報告書 第12集 芝川又右衛門邸』は、兵庫県西宮市上甲東園から博物館明治村へ移築復原された芝川又右衛門邸について、その建築的特徴、解体調査、移築復原工事、歴史的背景を体系的に記録した報告書である。

芝川又右衛門邸は、明治44年(1911)、大阪の豪商・二代目芝川又右衛門によって甲東園の果樹園内に別荘として建設された。設計は、近代日本を代表する建築家の一人である武田五一。木造二階建の洋館を基本としながら、スパニッシュ瓦を葺いた屋根、石積と煉瓦アーチによる基礎部分、煙道、出窓、ベランダなどの洋風意匠に加え、室内には数寄屋建築の技法も取り入れられている。西洋建築と日本建築の意匠を融合させた、武田五一の住宅作品として重要な建造物である。

昭和2年(1927)には和館が増築され、既存洋館についても外壁を杉皮張りからドイツ壁仕上げへ変更するなどの改修が行われた。この増改築にも武田五一が関与しており、本書では創建時だけでなく、その後の改変過程についても調査している。

平成7年(1995)の阪神・淡路大震災によって建物は大きな被害を受け、半壊状態となった。現地保存も検討されたが、所有者の意向により博物館明治村への移築保存が決定し、同年に解体材が寄贈された。その後、解体から10年を経た平成17年(2005)、明治村開村40周年記念事業として移築復原工事に着手し、平成19年(2007)9月に竣工・公開された。

移築復原では単純に創建時へ戻すのではなく、昭和2年の増築・改修にも武田五一自身が関与していたことや、武田が晩年の作品集で昭和初期の状態を自作として紹介していることなどを踏まえ、昭和初期の姿を再現することを基本方針としている。この復原年代の設定過程は、文化財建築における「どの時点を保存・復原するのか」という問題を考えるうえでも重要な記録となっている。

本書は全5章で構成される。第1章「建造物の概要」では沿革、文化財登録、規模、構造形式を整理し、第2章「移築工事」では施工工程、工事仕様、工事費、工事組織を記録する。第3章「調査事項」は本書の中心となる部分で、敷地・創立沿革、移築前の破損状況、移築に伴う変更、形式技法調査、発見資料などを詳細に扱っている。

形式技法調査では、木部、建具、タイル、塗装、照明器具、暖炉、ステンドグラスなど建築各部について実物調査に基づく記録が収録されている。材料調査表、建具表、使用タイルの分析結果、照明器具表なども掲載され、建築意匠だけでなく材料・部材レベルで建物を読み解くことができる。

第4章「関連調査事項」では芝川家と武田五一について整理し、建造物の歴史的評価を行う。建物単体の工事記録にとどまらず、施主、設計者、甲東園の形成などを含めて建築を歴史的に位置付けている点も本書の特徴である。

さらに、創建当初や昭和初期の写真、解体時・移築工事時の写真、実測調査図、移築後竣工図など、多数の図版を収録する。巻末には「解体写真」「移築工事写真」「解体時図面」「竣工図面」がまとめられており、移築前後の状態や部材構成を比較検討できる。

芝川又右衛門邸の建築史的研究資料であると同時に、震災被災建築を解体し、調査・記録を経て移築復原する一連のプロセスを追跡できる保存修理資料として価値が高い。既存建物の履歴、部材、材料、改変箇所を整理して保存・活用につなげるという点では、文化財建築のBIM化や建物情報の体系化を検討する際にも有用な一次資料となる。


引用|博物館 明治村 編『明治村建造物移築工事報告書 第12集 芝川又右衛門邸』博物館 明治村, 2010.